2009年8月31日月曜日

Unsolved Disputes on the Invalidity of Patent

特許無効紛争の一回的解決
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民主党の衆院単独絶対安定多数が確定したが、同党・菅 直人議員の弁理士資格が、知財振興に寄与することを期待する(2009-0830夜半)。

56.(承前2009-08-30記事)キルビー最高裁判決および特許法104条の3は、紛争を一回的に解決することが望ましいという理念に基づく。(SANARI PATENT考察: ここに引用している「キルビー最高裁判決」は、最判平成12年4月11日第三小法廷平成10年(オ)364号をいい、「キルビー特許事件」又は「富士通対テキサスインスツルメンツ社・損害賠償請求権不存在確認訴訟事件」と呼ばれている。キルビー特許、いわゆる275特許事件の上記最高裁判決は、「無効審判が確定していない場合においても、その特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、特段の事情がない限り、その特許権に基づく差止めや損害賠償の請求は権利の濫用に当たり、許されない」とするものである。すなわち、裁判所の侵害訴訟手続中での無効判断を認めたものである。また、特許法104条の3は、平成16年裁判所法の一部改正法によって新設された条文で、「特許権等の侵害訴訟において、その特許が特許無効審判によって無効にされるべきものと認められるときは、特許権者等は相手方に対してその権利を行使することができない」とされ、被疑侵害者に特許無効の抗弁が認められた。)しかし、侵害訴訟の被告の多くは無効審判も請求するため、2つのルートの利用によって紛争処理の結果の予測が困難になり、侵害訴訟が紛争解決システムとして機能しなくなっている。現行制度は、同じ証拠・理由であっても、侵害訴訟の被告に侵害訴訟の被告に特許を無効とするチャンスを二重に与えており、特許権者に一方的に不利な状況である。侵害訴訟か無効審判かのいずれかに絞るのではなく、104条の3によって生ずる特許権者のリスクを軽減する立法措置を講ずるべきである。
57. 制度としては、特許権の有効な範囲の迅速な確定と共に、シンプルで正確かつバランスのとれたシステムが望ましい。例えば、侵害訴訟提起後は、無効審判請求を禁止し、裁判官の進捗管理のもと、特許庁に有効性の判断を審理付託することを可能にし、侵害訴訟における特許無効の判断には対世効を持たせるべきである。特許無効の判断の効果は、将来にのみ及ぶとすれば問題ない。
58. 司法と行政の分担がきちんとなされていない。以前は特許権には法的安定性があったが、それがキルビー最高裁判決以降に壊れてしまっており、これを修復するかを議論の出発点とすべきである。
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2009年8月30日日曜日

Problems Relating to the Registration of Patent License

専用実施権の登録内容に関する問題、紛争解決におけるダブルトラックへの対応負担問題
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50.(承前2009-08-29記事)不動産登記制度は、登記が問題なくできることを前提としている。一方、ライセンスに関する情報を他人に知られたくない場合があるなど、登録すること自体にマイナスの効果がある専用実施権等に関して、登録が問題なくできることを前提とした制度が妥当するのかについては、今一度考え直す必要がある。(SANARI PATENT考察: 登録内容を第三者に対抗できるように登録する一方、その内容を第三者に知られたくないというのであるから、内容を知り得る第三者の範囲と知り得る場合を限定しなければならないが、立法技術として可能か、問題が大きい。)
51. 登録を効力発生要件とする現行の専用実施権制度は、取引の安全を強く重視した制度だが、実務上の問題が多く、現代において適切な制度であるか、十分に検討する必要がある。契約によって効力が発生し、第三者に対して主張する場合にのみ登録が必要という制度は、民法における物件の仕組みとも一致するため、導入可能と思われる。
52. 民法の世界では取引安全のために強い権利は外から見て分かるようにしておくべきであると考えられている。知財の世界において、情報開示による権利者の不利益に対応して、独占的ライセンスの開示事項の範囲を現行の専用実施権より狭めることを検討する際には、公示システムとの折り合いをどうつけるかの問題を十分勘案しなければならない。
53. 特許出願段階における特許権への質権設定の解禁や、出願段階における特許権の公示・登録制度の創設は、実務のニーズに対応するものとして賛成する。
54. 譲渡担保による資金調達は、金融機関が特許権の名義人になる点で、特にベンチャー企業にとって抵抗感がある。出願段階における特許権への質権設定をさほどコストをかけずに解禁できるのであれば、解禁してもよいのではないか。
55. ダブルトラック(紛争処理における特許の有効性判断が、無効審判と侵害訴訟の二つのルートで行われ得ること)による対応負担。判断齟齬について、キルビー最高裁判決および特許法104条の3の理念を先ず考察する。(以下次回)
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2009年8月29日土曜日

Various Formation of Patent License

ライセンスの諸形態と民商法一般原則との関係
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45.(承前2009-08-28記事)デユーデリジェンスの実施程度は、取引形態によって異なる。特許権の売買の場面に比べて企業買収の場面では、例えばクロスライセンスの詳細な内容についてまでは調べない場合もある。
46. 民法や商法の法制度は、社会経済のインフラであり、必要があれば例外を設ければよいが、その際には相当の理由が必要である。当然対抗制度とするためには、以下3つのハードルがある。(1) 通常実施権が特許権の譲受人等の第三者にも主張可能な権利であると考えられるか。(2) 通常実施権が第三者にも主張可能な権利であるとした場合に、その主張に登録は不要と考えられるか。(3) 要求すべき水準の努力を尽くしても通常実施権の存在を認識できなかった第三者に対しても、通常実施権を主張可能と考えられるか。これらのハードルを越えるためには、単に登録が困難ということだけでなく、現代社会の状況に即した積極的な理由づけが必要である。
47. 民法の一般原則の例外を認めるに当たっては、特許権の譲受人とライセンシーの実務的なニーズと理論的な説明の双方を検討することが必要である。理論的な説明としては、有体物を前提とする民法は、無体物に関する一般法とは必ずしも言えないのではないかという点がある。また、有体物である不動産に関する権利に民法の一般原則の例外(借地借家法等)が認められていることからすれば、無体物を前提とする通常実施権に民法の例外を設けることは可能ではないか。
48. 独占的ライセンスに関するニーズは業界によって異なる。電機業界は、独占性を確保するというより事業に必要な特許を利用できることを重視する傾向が強い一方で、製薬業界は利用を完全に独占することを重視する傾向が強い。このため製薬業界では、独占的ライセンス制度の整備に対するニーズが高い。
49. 登録が効力発生要件とされている専用実施権制度は、日本と韓国にのみ見られる特殊な制度であり、外国企業との取引において問題が生じている。専用実施権制度を廃止して、独占的な実施権と非独占的な実施権の2種に整理し、いずれも契約によって効力を発生するものとすれば、外国から見ても分かり易い。

SANARI PATENT所見
 包括的クロスライセンス等を必須とする電機機器業界と、M and Aによって特許権を独占取得する製薬業界となど、業界の特質に応ずる考察が必要である。
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2009年8月28日金曜日

System Plan of Registering License Intent for which Patent Fee will be Decreased 

ライセンス許諾意思登録制度案に対する評価等
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37.(承前2009-08-27記事)実施許諾用意制度(実施許諾する用意がある旨を登録した特許に対して、特許維持料等を減免する制度である。許諾用意の公表にインセンティブを与え、特許の流通・活用を促進する)の導入にはデメリットもある。料金減免だけを目当てに制度が利用され、実際には流通促進に繋がらないおそれがある。
38. 企業にとって料金減免の効果は大きいので、導入に賛成する。
39. 制度設計が最大の課題である。最も問題になるのはライセンス料の設定の仕方や、合意に至らなかった場合の紛争解決システムが構築できるかどうかである。また、特許会計全体へのインパクトや、既存の特許に対する経過措置も考慮すべきである。
40. 特許の活用が進んでいないという現状は、そもそも活用したい特許がないということに起因するのではないか。制度導入は活用促進に激的効果を及ぼすには至らないかも知れないが、新しいビジネスを起こす手がかりになるという程度の効果はあるかも知れない。
41. 活用促進になるかどうかは不明である。制度を導入した場合、利点もあるが、権利を弱める方向の動きになると思うので、あまり好ましくない。
42. 現行の登録対抗制度は、通常実施権を登録しなければ、通常実施権者が特許権の譲受人等の第3者から差止請求等の権利行使を受け得るものだが、登録がビジネス実務上困難であるため、使いづらい。登録を必要とせずに、通常実施権の存在を立証するだけで第3者に対抗可能とする当然対抗制度を導入する必要性は、かなり高い。
43. 当然対抗制度は、民法の一般原則との関係では特異な制度と考えられる。しかし、特許権の取引は制度に精通する業者間で行われていることや、現状の実務においてデユーデリジェンス(SANARI PATENT注: 取引における適切な注意義務の履行)が実施されていること等からすれば、取引の安全を害するとは考え難い。当然対抗制度を導入すべきである。
44.  デユーデリジェンスでは、ライセンスの具体的内容までは判明しないのではないか。デユーデリジェンスにおいて必要な情報が取得されることが慣行として成立しているのであれば、当然対抗制度の導入に賛成する。(以下次回)
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2009年8月27日木曜日

WTO TRIPS Agreement Concerning Patent Utilization 

裁定実施権制度をめぐる国際協定、リサーチツール等の諸問題
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31.(承前2009-08-26記事)現行の裁定実施権制度については、公益上必要な場合の裁定以外は不要ではないか。ライセンス交渉を有利に進める材料として裁定制度の存在が利用され得るが、現実には裁定制度そのものまで利用するニーズはあまり無い。リサーチツール(実験用の動物や実験装置・機器・データベース、ソフトウェアなど、研究のため必要とされるあらゆる技術をいう)についても、自動的に裁定の対象にまでする必要はない。(SANARI PATENT考察: 裁定制度は、実施権の設定を強制する制度であり、わが国の特許法では3つの場合について規定されている。「公共の利益のため」「後願発明者が通常実施権の設定を求める場合」および「特許権者が婦実施の場合」である。WTOのTRIPS協定に、強制実施権について、国内法令で定める場合に遵守しなければならない条件を規定していることには、特に留意する必要がある。なお標準化については、製薬工業界において特に問題であったが、現時点ではRAND条項の採択に合意している。)      
32. 他国の強制実施権制度に関する政策への影響などを考慮すべきである。
33. 裁定は、行政が行うものとして導入されたもので、裁判所が裁定を行ってよいのか疑問がある。
34. 特許権の効力の例外範囲である「試験・研究」に何を含めるかについて、具体的には、リサーチツールの使用、他社が特許権を有する医薬の研究などについて含めるべきである。
35.  リサーチツールを使う側と開発する側のインセンティブとのバランスを調整すべきである。なお、大学では実際には問題になっていないのではないか。
36. 判例の積み重ねにより例外範囲が明確になるよう運用し、そこで問題があれば法改正を検討すべきである。
 前回に追記:
eBay判決(2006)に示された、米国連邦最高裁の「差止めを認めるかを判断する際の考慮事項(4つの要素)」
(1) 侵害を放置した場合、権利者に回復不能の損害を与えるか。
(2) 損害に対する補償が、金銭賠償のみでは不適切か。
(3) 両当事者の困難を勘案して、差止めによる救済が適切か。
(4) 差止めが公益を害することはないか。
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2009年8月26日水曜日

Balance of Rights and Interests in the Suspension Order for Patent

 差止請求権行使における当事者間の権益のバランス
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27.(承前2009-08-25記事)わが国で、理論的には一定の場合に権利の濫用であるという理由で差止請求権を制限する余地はあるが、実務的には、制限した場合の代替措置などバランスを取る方策を検討すべきである。(SANARI PATENT考察:  差止請求権を行使されて回復困難な損害を生ずる側と、差止請求権を制限されて回復困難な損害を生ずる側と、両者の法益のバランスの問題に帰着する。)
28. 特許権の効力として、将来分の金銭的填補と差止請求権はセットで考えるべきである。特許権が財産権である以上、代替措置や、その後に発生する損失を経済的に填補するような制度を整備しなければ、国民の財産権を保障する憲法の規定に違反することにもなり得る。(SANARI PATENT考察: 同時に、 差止請求権を行使しないことによる損失を填補しなければ、国民の財産権を保障する憲法の規定に違反することにもなり得る。) 
29. 裁判実務では、他の法域と同様に、一般原則である権利濫用法理によって差止請求権を制限することは困難ではないか。差止請求が相当でない場合には、特許権を無効または権利範囲を狭いと判断し、問題を回避していると言われている。しかし、これでは侵害自体が否定され、損害賠償まで否定することになり、行き過ぎたこととなる。権利侵害を認めた場合に権利濫用と判断した事例はないのではないか。従って、現行制度では損害賠償だけ認めて差止請求を認めないという運用を行うことはかなり難しく、これでは硬直的だから、立法措置が必要である。例えば、損害賠償請求を原則として、例外的な場合に差止請求を認める制度があり得るが、特許権の保護のベースが下がることが懸念される。
30. 差止めを制限したとしても、特許権侵害として損害賠償を認めている場合には、理論上は侵害行為に刑事罰が適用され得るが、それでは行き過ぎであるため、刑事罰が適用されることのないよう、侵害の違法性を打ち消す目的で、裁定と同様の効果を差止制限に行わせるような制度設計はできないか。(SANARI PATENT考察: 特許権侵害の有無の判断に事実を要し、かつおの結論が不安定であることが、この問題の根源である。)(コメントは sanaripat@gmail.com に御送信下さい)

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2009年8月25日火曜日

Patentability Relating to Progressiveness(Non-Obviousness)of the Invention 

進歩性(米国特許法の非自明性)の審査基準と特許訴訟
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24.(承前2009-08-24記事)日本は、各国と比較して進歩性の審査基準が厳しいため、価値のない特許権による弊害は抑制されている。また、裁判において無効の抗弁が認容される場合も多く、製品に対する寄与度を勘案して損害賠償額を産出しているため、米国に比べて高額賠償が出にくいなど、特許権が強力であることの弊害は生じにくい。(SANARI PATENT考察:「進歩性の審査基準」は、米国では「非自明性の審査基準」だが、審査基準としては日米同様いなっていると考える。また、この発言のうち「製品に対する寄与度」は、精確には「製品の売上利益に対する寄与率」で、改正前特許法の職務発明に対する対価訴訟の知財高裁判決に累積した事例を指していると考える。米国では当事者間契約に委ねられているが、技術者の流動性が確立しているなど、わが国と環境が異なるけれども、全般的に職務上発明の対価が高額であるとは考えられていない。)
25. わが国では、米国でみられるような知財訴訟の弊害はないが、特許権侵害の警告事例が増加しており、企業は対応を求められている。(SANARI PATENT考察: 米国では特にプログラム特許、ビジネス方法特許について、進歩性・非自明性の要件を緩和して多くの発明を促す、すなわち、進歩のステップを多くしてイノベーションに至る過程と、イノベーションに直結する大進歩・顕著な非自明性に特許付与を限定すべきであるという大企業筋の主張が対立している。知財訴訟費が米国全体として高額に過ぎる観があることは、米国政界でほぼ共通の認識だが、小規模発明家の集団発言力も強い国柄である。)
26. 特許権の性質については、従来は所有権類似のものと捉えて差止めを認めてきたが、知的財産が土地や建物などの境界線が明確な物を対象とする所有権とは本質的に異なるとすれば、必ずしも特許権を所有権と同様に考える必要はない。(SANARI PATENT考察: 自民党の憲法改正成案は、財産権の規定のもとに特許権を置く。) 例えば、特許権の行使が権利濫用であるか否かを判断する際に考慮すべき要素を、特許制度特有のものとして固定してもよいと思う。(SANARI PATENT考察: 適切な提案と考える。)(コメントは sanaripat@gmail.com に御送信下さい)      

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2009年8月24日月曜日

Pro-Patent vs. Anti-Patent Relating to Suspension Order and Patent-Troll 

差止め請求行使認容の寛厳と生産保護、パントトロールと差止め請求
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18.(承前2009-08-23記事)特許権侵害の回避努力にもかかわらず、意図せずに他社の特許権を侵害してしまった場合に、その後ライセンス交渉に誠実に対応しているにもかかわらず事業を差止められるとしたら不当ではないか。
19. 差止請求権の行使に対応し、製品における寄与度の低い特許を回避することは、一定期間であれば容易ではないか。
20. 特許の技術的回避にはそれなりの時間がかかる。差止め実施までの猶予期間を適切に設定できるのであれば、かなりの問題が解決できるのではないか。
21. 有償譲渡された特許権による差止めは、目的が実施料収入や損害賠償である場合が多いと思われ、裁判で和解を勧奨されれば解決するのではないか。(SANARI PATENT考察: パテントトロールの場合は、転売目的だ有償取得するが、関連特許権をセットにして売る場合も多く、回避を困難にする。特許権の取得と販売は特許権流通の基本形態であり、事業化しないことが原則的な大学について、「大学もパテントトロールか」という記事まで見られるようになった。)
22. 小さな企業が市場拡大・独占を目指す場合には、差止請求権が非常に大事である。一方、大企業が小企業の特許を無視して大規模な事業を行った場合に、eBay判決の4要素を考慮したとして、差止め請求が認められ得るのか疑問がある。(SANARI PATENT考察: 指摘されている4要素というのは、特許性すなわち、特許の有効性無効性に関する判断要素であり、司法決着までには事実を要するから、差止め請求が認められずに大企業の生産販売が続行されれば、市場占有が確立してしまうことになる。)
23. 日米の特許保護の状況は同様に見えるが、制度の厚みや深みが異なる。米国は、特許権の効力をかって制限し、その後反省して保護を強化し、さらに揺り戻しが来ているという試行錯誤の歴史を経ている。日本は米国の後を追い、特許権保護を強化したが、今は停滞中である。中国などの国々は、まさに特許制度を整備強化する過程にある。あたかも米国・日本・中国等が一周づつ遅れてらせん階段を登っているかのようである。(SANARI PATENT考察: この螺旋階段の過程で、産業の発展段階に対応する属地主義がどのように作用するかが現実の問題となる。日本で物質特許が認められるに至ったのも、それほど遠い昔ではない。商標については、漢字輸入国である日本には中国由来の地名が多く、特許権と併せて十分検討すべきである。)(以下次号)

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2009年8月23日日曜日

Compulsion of Patent License is Difficult to Make Work 

特許庁長官の裁定によるライセンスの強制設定の問題点
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14.(承前2009-08-20記事)裁定とは、経済産業大臣や特許庁長官が特許権者に強制的にライセンスさせる制度である。侵害事件において、侵害したとされる者は、裁定を求めて特許権者とライセンスすることにより問題を解決してはどうかとの考えもある。しかしながら、これは機能しにくいと思われる。そもそも裁定を求めるということは、侵害を認めたということになるので、侵害をしたとされる者は裁定をもとめにくい。裁定を求めつつ裁判も行っていれば、どちらの判断が先に出るのかも、また、どのような結果が出るのかも分からない。
15. 差止めの在り方は古くから議論されていた。例えば昭和22年に独占禁止法を制定する際にも、「特許権を使用したいとの申し出がなされたときは、その特許権を有する者は必ず応じなければならない」との規定を独占禁止法に導入してはどうかとの議論があった。
16. 2006年の米国連邦最高裁の判決(eBay判決)における差止めを認めるかどうかの考え方は、非常にバランスがとれており、イノベーション促進の観点からも、そのままわが国に導入すべきである。
17. 日米の制度の違いは、日本は原則として差止めも損害賠償も認められるのに対して、米国では権利侵害に対する救済は懲罰賠償も含み得る損害賠償が原則で、差止めは裁判官の裁量による例外的措置であることである。
18. eBay判決は、米国における一般原則を特許権侵害に当てはめたものに過ぎない。日本の制度および実務の違い、差止めを制限した場合の悪影響を考えて、慎重に対処すべきである。

SANARI PATENT所見
 わが国では裁定による実施権の設定事例が、現在まで皆無である。鳥インフルエンザについての抗ウイルス剤(特に経口投与錠剤)の特許製品の途上国における強制実施権依拠生産が、現実の問題である。
 米国のeBay事件は、米国On Line Auction 大手のeBay社の「Buy it Now」機能に対するMerc Exchange社提起の特許侵害訴訟で、特許権の有効性が争われた。CAFC(実質的にわが国の知財高裁)の逆転判決や、米国最高裁の差し戻し判決があり、特許性および差止め認容の要件が示された。
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2009年8月22日土曜日

Japan Brands of Daily Necessaries will be Displayed at Paris Trade Fair 2010 

経済産業省が「平成21年度日用品ブランド育成事業審査結果」を発表
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 わが国の優れた生活関連製品(日用品)が、世界で通用するブランドを構築し、海外での販路を開拓するための支援策として、経済産業省(担当:製造産業局日用品室)は「生活関連 産業ブランド育成事業(通称:sozo.com)を補助事業として行っている。本年度経済産業省予算7000万円。
 来年1月にパリで開催されるインテリア総合見本市「メゾン・エ・オブジェ」に日本展として出展する作品について、上記補助事業対象選定の審査結果が発表された(2009-08-21)。内容(SANARI PATENT要約)は、

1. 経済産業省では、わが国の生活関連製品の魅力を世界に発信し、世界で通用するブランドを構築するため、全国の企業から、海外市場を目指す製品を募集・選定して、世界的に有名な欧州見本市で展示、販路開拓を支援している。
2. 本年度は、応募70社から、次の22社の製品を選定した。今回選定された22社の商品は、来年1月にパリで開催される「メゾン・エ・オブジェ」に、日本展として出展される。以下、企業名、商品ジャンル。
アッシェルコンセプト(東京都)インテリア用品、クルツ(同)その他、K(同)食器、小倉クリエーション(福岡県)ファブリック、杉原商店(福井県)ファブリック、スズサン(愛知県)照明機器、スノーピーク(新潟県)その他、テクノライフ(京都府)その他、鉄心ノ工房(山形県)食器、テオリ(岡山県)インテリア用品、テラモト(千葉県)インテリア用品、ハーズ実験デザイン研究所(大阪府)インテリア用品、HANDSON(東京都)文具、BITOWA from AIZU(福島県)食器、広田硝子(東京都)食器、二葉(同)ファブリック、フラット(同)照明機器、細尾(京都府)ファブリック、松井ニット技研(群馬県)ファブリック、丸信金属工業(栃木県)インテリア用品、ミヤマプランニング(岐阜県)食器<ルボア(香川県)文具。
SANARI PATENT所見
 パリに出展に先立ち、経済産業省と都道府県の全国組織の広報展示場に、上記22社製品を展示し、国内周知させるべきである。
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2009年8月21日金曜日

METI Holds 2nd Study Meeting for the Compliance to Business Competition Legislation

 経済産業省、第二回競争法コンプライアンス体制研究会予定
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1. 経済産業省(担当:経済産業政策局競争環境整備室)は、第二回競争法コンプライアンス体制研究会を来る8月27日に開催すると発表した(2009-08-20)。議題は、「企業におけるカルテルに対するコンプライアンスに係る取組および先駆的事例」「企業からのヒアリング」としている。
2. 第一回研究会は本月8日に開催されたが、委員は、日商・青山理事・産業政策第一部長、経団連・阿部・経済基盤本部長、東大大学院・小寺教授、日比谷総合法律事務所・多田弁護士、慶大・田村教授、甲南大大学院・根岸教授、三和電気工業・林・管理部長、ジョーンズ・ディ法律事務所・宮川弁護士、パナソニック・三好コンプライアンスグル-プ公正取引室長、大江橋法律事務所・茂木弁護士で、公取委の山田国際課長がオブザーバとして参加している。
3. 今月4日の第一回研究会においては、各国競争法の執行方法について次のように報告された(SANARI PATENT要約)
3-1 現在、欧米いずれの競争当局においても、カルテル等の競争法違反行為の抑止という観点から、執行を強化する傾向にあり、また、中国においても厳格な執行がなされる可能性があるので、先ず、各国競争当局の域外適用の事例にも触れつつ、その具体的な執行の現状を把握し、企業および事業者団体の体制を整備することが必要である。
3-2 企業の立場では、競争法違反を「予防」し、完全に競争法違反のリスクをなくすことはできないという問題意識のもとで、いち早く「違反の発見」をし、「発覚後の対応」に繋げるという観点から、望ましい取組を検討する必要がある。
3-3 事業者団体としては、事業者団体が果たしている役割を踏まえつつ、競争法違反を防ぐための望ましい取組を検討する必要がある。
3-4 米国では、従前より、域外適用も含め、カルテルの摘発に非常に力を入れている。米国の競争当局の一つである司法省反トラスト局の摘発により、日本企業を含めて、1億ドルを超える巨額の罰金が課されるようになっている。
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2009年8月20日木曜日

Establishment of Patent System Emphasizing Quality and Balance 

先行技術、特許の質、差し止め請求等をめぐる諸問題
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7.(承前2009-08-19記事)特許の審査においては、それ以前に存在した技術の調査は重要である。しかしながら、特許庁が調査に用い得る時間には制約もあり、加えて、学術論文などの特許以外の文献を完璧に調査することは難しいので、米国のように、特許庁外部の有識者の知見を活用してはどうか。(SANARI PATENT考察: 先行技術・従来技術の調査をわが国では外部団体に委託している。いずれにしても「完璧」は難しく、審判請求や知財訴訟で補完することとなる。この限度で、特許権の法的安定性には不安定性が内在し、特許権者はこれに伴うリスクを負担する。)
8.完璧な審査は不可能であるのだから、特許庁と裁判所の役割分担は重要な課題である。
9.各国の特許庁における従来技術文献の調査のやり方を統一してはどうか。
10.一つの製品に多くの特許権が含まれる場合、この多くの特許権の一つだけを侵害しても、製品全体の製造や販売が差し止められてしまう。(SANARI PATENT考察: 差し止めと損害賠償請求の優先選択の問題で、差し止めの結果の不可回復の程度が、その発動において参酌さるべきである。)
11. 特許権の在り方を議論する際には、その特許権を有している者は、企業のように事業を行う者なのか、それとも大学のように事業を行わない者なのかも考慮に入れる必要がある。(SANARI PATENT考察: 特許権を知財界の貨幣と考え、その流通を目的として創出・買収するビジネスが成立している。類型としては大学もこれに属するから、大学もパテントトロール化の可能性があるという公式発言もある。)
12. ライセンスオブライト制度とは、差し止めを行わないと宣言すれば、特許の登録料金を安くするというものである。裏を返すと、この制度のもとでは、登録料金をきちんと払っていれば、必ず差し止めができるということにならないか。
13. 特許権は、差し止めが当然できる権利と考えられている。これは、特許権が民法上の物を支配する権利、つまり所有権に由来することによる。一方、所有権は、物から利益を得る権利も含む。この点を踏まえ、差し止めの権利を制限して、利益を得る権利のみを検討してはどうか。(SANARI PATENT考察: 差し止められると回復不能な損失をこうむる場合があると共に、差し止めないと回復不能の損害をもたらす場合があるか、バランス論となる。)(コメントは sanaripat@gmail.com にご送信ください) 

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2009年8月19日水曜日

Japan Patent Office Holds Study Meeting For New Patent System 

特許庁は本月25日に第6回特許制度研究会を開催
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 特許庁(担当:総務部総務課)は、第6回特許制度研究会を8月25日に開催すると発表した(最終更新2009-08-18)。議題は、「国際的な制度調和の推進」、「迅速・柔軟かつ適切な権利付与」その他としているが、「委員による率直かつ自由な意見を確保する必要がある」との理由で、会議を非公開とし、会議開催後における議事要旨等の公開にとどめている。なお業界委員は、三菱電機、日本IBM、トヨタ自動車、アステラス製薬の会長等である。
 以下これまでの議事要旨を考察する。
1. 特許制度を50年ぶりに見直すことは非常に重要である。(SANARI PATENT考察: ほとんど毎年、特許法を改正しているから、この研究会による改正は基本的課題に対応するものであると解する。)
2. イノベーションを促進するため、特許制度全体を原点に立ち返って検討することは重要である。ただし現在のような景気低迷下で(SANARI PATENT注:この項の発現は2009-01-26第1回会合)議論する際は、わが国の利益のみを恣意的に保護することに偏らないよう留意すべきである。
3. 特許の質の議論においては、「特許として保護するのは、どのようなレベルの発明なのかという実質的な論点」と、「実際にその基準を、特許の審査においてどのように実現するかという手続的な論点がある。(SANARI PATENT考察:「特許の質の向上」は、米国でもBarak Obama、Mc-Cain双方の演説に強調されたが、それは訴訟負担軽減の見地から発言されている。進歩性・新規性・想到非容易性の程度の問題であるが、現行制度は「当業者」という仮想人格の判断に委ねている。)
4. 極めて優れた発明だけを特許として保護し、その保護を徹底すればよい。(SANARI PATENT考察: 改良発明の集積がイノベーションを形成するという論議にどう対抗するか、問題を残す。次項参照。)
5. ベンチャーや中小企業の視点も重要である。小さな発明でも保護して欲しいニーズはある。ある程度優れた発明であれば、特許として保護すべきである。
6. 特許として保護される発明の水準が国によって異なると、企業のグローバルな活動の妨げになる。(SANARI PATENT考察: 特許法の属地主義を現在の国家主権、保護主義の要素と、どのように調和させるか、基本課題である。)(以下次回)(コメントは sanaripat@gmail.com に御送信下さい)

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2009年8月18日火曜日

The Difference of Uses by Same Medicine 

医薬用途の相違についての考え方(審査基準改訂案)
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 (承前2009-08-17記事)上述したように、有効成分が同一であっても、医薬用途が異なる場合は新規性が否定されないから、「医薬用途の相違についての考え方」が明確でることを要する。今次改訂案は次のように述べている(SANARI PATENT要約)。
(a)  請求項に係る医薬発明の医薬用途と、引用発明(SANARI PATENT注: 従来技術)の医薬用途とが、表現上異なっていても、出願時における技術常識を参酌すれば、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)に該当すると判断される場合は、請求項に係る医薬発明の新規性は否定される。
 (ⅰ)その作用機序から医薬用途を導き出せるとき
   例えば、「引用発明→本願発明」において、気管支拡張剤→喘息治療剤、血管拡張剤→血圧降下剤、冠血管拡張剤→狭心症治療剤、ヒスタミン遊離抑制剤→抗アレルギー剤、ヒスタミンH-2受容体阻害剤→胃潰瘍治療剤
 (ⅱ)密接な薬理効果により必然的に生じるものであるとき
   例えば、強心剤→利尿剤、消炎剤→鎮痛剤
  上記(ⅱ)の例において、医療の分野では、二以上の医薬用途を必然的に有する化合物等があるが、必ずしも、上記(ⅱ)の例に該当する第一の医薬用途を有する化合物等の全てが第二の医薬用途を有すると限らないことも認識されている。従って、このような場合に、請求項に係る医薬発明の新規性を考える場合には、当該化合物等の構造活性相関等に関する出願時の技術常識を勘案する必要がある。
(b)引用発明の医薬用途が請求項に係る医薬vtの医薬用途の下位概念で表現されているときは、請求項に係る医薬発明の新規性は否定される。
   例えば、抗精神病剤→中枢神経作用剤、肺癌治療剤→抗癌剤
(c) 引用発明も医薬用途が請求項に係る医薬vtの医薬用途の上位概念で表現されており、出願時における技術常識に基づいて、引用発明の医薬用途から、下位概念で表現された請求項に係る医薬用途を導き出せるときは、請求項に係る医薬発明の新規性は否定される。(改訂案は、ここの注記して、「概念上、下位概念で表現された医薬用途が、上位概念で表現された医薬用途に含まれる、あるいは上位概念で表現された医薬用途から下位概念で表現された医薬用途を列挙することができることのみでは、下位概念で表現された医薬用途を導き出せるとはしない」と定めている。(以下次回)
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2009年8月17日月曜日

Patent Examination Procedure for the Novelty of Medicine Invention 

特定の属性に基づく医薬用途についての判断
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4(承前2009-08-16記事)また、当事者が当該刊行物の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その化合物等を医薬用途に使用できることが明らかであるように当該刊行物に記載されていない場合にも、当該刊行物に医薬発明が記載されているとすることはできない。例えば、当該刊行物に何ら裏付けされることなく医薬用途が単に列挙されている場合は、当業者がその化合物等を医薬用途に使用できることがあきらかであるように当該刊行物に記載されているとは認められず、当該刊行物に医薬発明が記載されているとすることはできない。
5.新規性の判断(SANARI PATENT注:付番は本稿の説明順によって付し、原典と同一ではない。)
 医薬発明の新規性の判断については、「第Ⅱ部1.5.5新規性の判断」及び本章「2.2.1医薬発明に関する新規性の判断の基本的な考え方」に基づき、以下の(5-2)及び(5-2)により判断する。以下で引用発明とは、第29条第1項に掲げる発明として引用する発明をいう。
(5-1) 特定の属性を有する化合物等について
 請求項に係る医薬発明の特定の属性を有する化合物等と、引用発明の化合物等とが相違するときは、請求項に係る医薬発明の新規性は否定されない。(SANARI PATENT考察: 審判請求や知財訴訟で争われるのは、この「相違」の有無自体であって、相違するときは新規性は否定されないことは当然である。知財高裁で「相違」の有無があらそわれた事件について、判断の要旨を記載することが有用である。)
(5-2) 特定の属性に基づく医薬用途について
(5-2-1) 特定の疾病への適用
 請求項に係る医薬発明の化合物等と、引用発明の化合物等とが相違しない場合であっても、請求項に係る医薬発明と引用発明とが、その化合物等の属性に基づき特定の疾病に適用するという医薬用途において相違点がある場合は、請求項に係る医薬発明の新規性は否定されない。例えば、請求項に係る発明が「有効成分Aを含有することを特徴とする疾病Z治療薬」であり、引用発明が「有効成分Aを含有する疾病X治療薬」である場合において、出願時の技術常識を参酌することにより、疾病Xと疾病Zが相違する疾病であることが明らかになれば、請求項に係る医薬発明の新規性は否定さrない。(以下次回)
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2009年8月16日日曜日

Amendment of Patent Examination Procedure for Medicine Invention (2) 

「実施可能要件」「新規性」の審査基準改訂
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2.(承前2009-08-15記事)実施可能要件
 改訂案は先ず次のように定める。現行審査基準に、『』部分を付加する改訂である。
「医薬発明は、一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、またはどのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明であることから、当業者がその発明を実施することができるように発明の詳細な説明を記載するためには、『出願時の技術常識から、当業者が化合物等を製造または取得することができ、かつ、その化合物等を医薬用途に使用できる場合を除き』、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要である。そして、医薬用途を裏付ける実施例として、通常、薬理試験結果の記載が求められる。」
3.新規性判断の基本的考え方
 改訂案は次のように簡明に定める。
  医薬発明は、ある化合物等の未知の属性の発明に基づき、当該化合物等の新たな医薬用途を提供しようとする「物の発明」であり、www発明の新規性は、(1)特定の属性を有する化合物等、及び、(2)その属性に基づく医薬用途の二つの観点から判断される。
4.新規性の判断の手法
 改訂案は、「請求項に係る医薬発明の認定」の項を次のように改めている。
 「請求項に係る発明の認定は、請求項の記載に基いて行う。この場合においては、明細書及び図面の記載並びに出願時の常識を考慮して、請求項に記載された発明を特定するための事項(用語)の意義を解釈する。」
 刊行物に記載された発明の認定について改訂案は、次のように定めている。
 「当業者が当該刊行物の記載及び出願時の技術常識に基づいて、医薬発明に係る化合物等を製造又は取得できることが明らかであるように、当該刊行物に記載されていない場合には、、当該刊行物に医薬発明が記載されているとすることはできない。」(以下次回)

SANARI PATENT所見
 知財高裁で特許性の有無が争われる場合に、その発明と刊行物発明の同一性が争われる場合が極めて多い。現行審査基準と対比して、表現の微細な相違のも注目しておくべきである(「容易に」という用語など)。
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2009年8月15日土曜日

Amendment of Patent Examination Procedure for Medicine Invention (1) 

医薬発明の特許審査基準改訂案
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 人工多能性幹細胞(iPS)研究が新段階に入ったとして、疾病解明や新薬開発に実用される期待が高まるなど、医薬関連発明に対する関心が特許制度に対する関心となって高まりつつある。特許庁は、「医薬発明」の改訂審査基準案について意見を公募しているが、その提出期限は9月5日に迫っているので、新旧対照しつつ、特許庁案を考察する。

1. 冒頭記述
 改訂案は冒頭に、「ここでいう医薬発明は、ある物の未知の属性の発見に基づき、当該物の新たな医薬用途を提供しようとする「物の発明」である」と定め、次のように注記している。
1-1 「物」とは、有効成分として用いられるものを意味し、化合物、細胞、組織、および、天然物からの抽出物のような化学構造が特定されていない化学物質(群)、並びに、そおらを組合わせたものが含まれる。以下、当該物を「化合物等」という。
1-2 「医薬用途」とは、「特定の疾病への適用」または、「投与時間・投与手順・投与量・投与部位等の用法または用量が特定された、特定の疾病への適用を意味する。
 現行審査基準では、「ここでいう医薬発明とは、第Ⅱ部第2章 新規性・進歩性 1.5.2-2/2において定義された発明のうち、医薬分野に属する「物の発明」を意味する」と記述するにとどまる。
2.「特許を受けようとする発明は明確であることを要件とするから、特許請求の範囲は、一の請求項から発明が明確に把握されるように記載しなければならない」ことについて:
 「種々の表現形式を用いることが可能である」として、改訂案には、事例を付した。すなわち、「製造方法で特定された細胞の医薬用途に特徴を有するもの」について、「解説」として、「請求項記載の工程により得られた細胞の医薬用途(抗癌)が、従来知られていた医薬用途(免疫抑制)と相違するから、この請求項に係る医薬発明は新規性を有する」こと、「そして、免疫抑制効果と血管新生との関係など、本件請求項の工程により得られた細胞を抗癌剤として用いた動機づけとなる先行技術文献が公知でないことから、上記請求項に係る医薬発明は進歩性を有する」としている。(以下次回)
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2009年8月14日金曜日

PASONA Group Analyses Current Human Resources Supply and Demand 

パソナグル-プが人材需給業務の動向を解析
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1. パソナグル-プ(東証1部)の今次事業報告(2008-06-01~2009-05-31)が届いた。世界金融危機に伴う実態経済の変動に対処して、企業の人材活用に関する方策は、質的量的に著しく変動している。当面、売上高の著減に対応する固定費の削減が、営業損失の著増を緩和するため急務であるが、人件費の削減は残業費や賞与の削減にとどまり、抜本的対策には遠い現状である。従って、今次経済白書が指摘するように、企業に内在する余剰労働力は600万人を超えると見られる。わが国の失業率が5.6%程度と算定されて、米国の9.6%等より低位であるが、上記600万人を加算すれば17%を超えるであろう。人材の活用は、その知的財産の活用であり、わが国経済政策の急務であるが、現実にこれを支持する機能の一部は、人材派遣会社に依存する。
2. この意味で 上記パソナグル-プの報告は、「人材派遣の草分けで業界3位」(会社四季報)という立場(Google検索では、人材紹介会社ランキングとして、パソナキャリア、インテリゼンス、リクルートという順序も見られる)から、人材需給の環境激変に対応する考え方を明確に述べている。すなわち、(以下SANARI PATENT要約)
2-1 バブル崩壊後、正社員採用に慎重であった企業は、将来の人材不足を見据え、当連結会計年度においても、積極的に正社員を採用していたが、世界金融危機の発生を契機として、正社員採用の大幅抑制・雇用調整に転換した。
2-2 人材サービス業界においては、若年層の転職紹介により活況を呈していた人材紹介事業が一転してマイナス成長となり、一方、企業の早期退職促進を支援する事業は急拡大した。
2-3 人材派遣事業においては、金融業界や輸出産業を中心に新規需要が抑制された。
2-4 しかしながら、この不況を契機として、一転して優秀スタフの確保が改善すると共に、派遣スタフの長期安定化も進んだ。また、足元では企業の業務効率化や人材戦略の見直しによる新たな派遣需要が見られるなど、企業における外部人材活用の質的な変化の兆し(SANARI PATENT考察: オープンイノベーションの一環と考える)新規需要全体も下げ止まりつつある端境期となった。
2-5 パソナグル-プにおいては、人材派遣事業が金融業界や輸出産業等で新規の人材需要が抑制されたことに加え、人材紹介事業においても重要が急減したことから減収となった一方、業務効率向上とコスト削減を目的とするインソーシング(請負)事業およびアウトソーシング事業は企業の需要も高く、拡大した。
2-6 再就職支援事業の需要も堅調に推移した。(コメントは sanaripat@gmail.com に御送信下さい)

2009年8月13日木曜日

METI Invites Designers Willing to Overseas Activity 

経済産業省が海外派遣デザイナーの募集を開始
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1. 経済産業省(担当:製造産業局デザイン・人間システム政策室)が「デザイナーよ、海外を目指せ。海外でのビジネス展開を考えているデザイナーの方々が現地のメーカー等にプロモーションを行い、クライアントを獲得する絶好のチャンスです。奮ってご応募ください」と呼び掛けている(2009-08-12発信)。
2. 応募資格は次の条件を満たす方としている。
2-1 国内での実績があり、海外での活躍に意欲を持つ。
2-2 日本国籍を有する。
2-3 企業・グル-プ・個人の応募可だが、学生は不可。
2-4 デザイナーの分野は問わないが、見本市のカテゴリーになじむ分野を優先する。
3. 見本市の概要
3-1 インテリア・ライフスタイル・チャイナ → 会場は上海。会期は2009-11-11~11-14
3-2 アンビエンテ → 会場はフランクフルト。会期は2010-02-12~02-16
4. デザイナーへの支援内容
4-1 各見本市会場に作品を展示できる。ただし、展示作品・展示方法等は、全体のバランスを考慮して、主催者側が決定する。
4-2 商談スペースで、来場者との商談ができる。Webの事前予約システムや、マッチングの専門家および通訳が常駐するなど、当日のサポート体制も充実している。なお、会期中は原則として、会場内に所在することが必要である。
4-3 会場内セミナスペースでプレゼンできる。また、各スペース毎のTVモニタ等で、映像によるPRができる。
4-4 デザイナー紹介のリーフレット(当日無料配布)に情報が掲載される。
4-5 その他、事業全体としての広報活動を主催者が行う。
5. 審査方法
5-1 審査委員: 委員長は日経デザイン・下川一哉編集長。委員は、日本産業デザイン振興会・青木史郎常務理事、デザインスタジオエス・柴田文江代表、武蔵野美術大学・長沢忠徳教授
6.募集期限 2009-09-04
7.SANARI PATENT所見
 わが国のデザイナーが、欧米のブランドによるデザイン制作を受注している場合も多い。ウニクロ等の低価格品のデザインも海外で注目されている。アニメとの協調も戦略として考えるべきである。
 なお、「派遣」の語が、「旅費負担」の点で明確でない。
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2009年8月12日水曜日

METI Starts Study Group for Medical Service Industry 

経済産業省が「医療産業研究会」を発足、座長・伊藤元重・東大経済学部長 〔「医療貯蓄制度創設」の持論も提示されるか?)
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1. 経済産業省は、医療サービスのイノベーションの促進や、新しい関連市場を見据えた産業化のための方策を検討する「医療産業研究会」を発足する(2009-08-11発表)。以下、内容(SANARI PATENT要約)を考察する。
1-1 目的: 医療サービスは、雇用創出、技術革新、地域振興の観点から有力な成長分野であるので、新たに医療産業研究会を発足し、医療サービスのイノベーションの促進・効率化と共に、新しい関連市場を見据えた産業化のための方策を検討する。
1-2 検討の内容: 医療に関連する新たな市場分野、新技術の導入・IT化による医療のイノベーション等を議論することを通じて、医療サービス・関連産業を活性化する。また、これにより、医療期間の収入拡大、雇用の増大、医療の質の向上等、わが国の医療体制の強化につながる好循環も期待する。
1-3 具体的議論項目:
1-3-1 医療に関連する新しい市場分野の拡大: 
1-3-1-1 医療ツーリズム、医療サービスの海外進出、外国との連携
1-3-1-2 医療と周辺産業の連携強化による健康関連サービス等、新しい市場の創出
1-3-2 医療サービス分野のイノベーション: 
1-3-2-1 電子カルテ等、医療情報基盤の一層の整備、活用、高度化
1-3-2-2 医療情報のデータベース化、データマイニングの実現による新しい医療サービス環境の実現(SANARI PATENT注:「データマイニング:Data Miningは、統計学、パターン認識、人工知能等のデータ解析の技法を大量のデータに網羅的に適用することにより、知識を取りだす技術である、など様々に解説されているが、今次研究会で先ずその定義を定めてから検討を開始されることを望む)。
1-3-2-3 遠隔医療、手術支援、ITによる診療支援など、医療サービスの高度化
1-3-2-4 先進的な創薬、医療機器の開発の在り方
2. 研究会のメンバー
  伊藤元重座長(東大経済学部長)、医療学識経験者として、関原国際医療福祉大学副学長、川渕東京医科歯科大教授、菊地防衛医大副学長、辰巳札幌医大大学院教授、南条和歌山県立医大学長、医療機関から、江藤日本歯科医学会会長、土屋国立がんセンター中央病院長、橋本国立循環器病センター総長、山本日本病院会会長、医療関連産業から、生駒キャノン副社長、小松東芝メディカルシステムズ社長、庄田日本製薬工業協会会長、永山バイオインダストリー協会理事長、和地テルモ会長、関係産業から、飯ケ谷日立製作所健康保険組合理事長、斎藤スポーツ健康産業団体連合会会長、佐々木JTB会長。

3.SANARI PATENT所見
 現在検討されている医療関係特許対象の拡大と密接に関係する。
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2009年8月11日火曜日

METI Invites Public Comments for the Calculation of Energy Balance

「長期エネルギー需給見通し(再計算)案」についてパブコメ(期限2009-08-21)
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 経済産業省(担当:資源エネルギー庁総合政策課)が「長期エネルギー需給見通し(再計算)の案について、意見を公募している。提出期限2009-08-21。以下その内容(SANARI PATENT要約)を考察する。

1. 長期エネルギー需給見通しは、わが国エネルギー需給構造の将来の姿を描いたもので、3年程度に一度策定されている。現行の見通しは2008-05に策定されたが、CO2削減中期目標(2009-06-10)の発表に対応して、諸前提を変更した再計算を行うものである。なお、上記削減目標は、低炭素革命において世界をリードするため、2020年に「2005年比15%減」を決断したが、これは「2005年比14%削減」から、未来開拓戦略での太陽光発電の大胆な上乗せなどで、削減幅を拡大したものである。欧州の13%、米国の14%を上回る。
2. マクロフレームの想定として、
2-1 わが国経済は早期に危機を脱し、その後、急速に回復する。経済成長率は2005~2020年1.3%、2020~2030年1.2%を見込む。
2-2 エネルギー価格は高値で推移し、原油価格を2020年は$121/bbl、2030年は$169/bblと見込む。
2-3 最先端技術を最大限導入する。
2-4 2030年までに、少なくとも30%以上のエネルギー効率向上、運輸部門の石油依存度80%程度、原子力発電の発電電力比率30~40%以上、一次エネルギーの石油依存度40%未満とする。
3. 従って、主な改定要因は、「道路交通需要の見直し」、「GDP成長率の下方修正」(SANARI PATENT注: 経済産業省案記載の順に従った)「エネルギー価格の見直し」「航空需要の見直し」「産業部門での技術の積み増し」「太陽光発電を20倍に」「燃料電池の積み増し」「バイオマスの積み増し」「小水力発電1300地点である。
4. 2005年度の実績と2020年度の最大導入ケースを原油換算万klで対比すると、
4-1 太陽光発電 35 → 700
4-2 風力発電 44 → 200
4-3 廃棄物発電+バイオマス発電 252 → 408
4-4 バイオマス熱利用 142 → 335
4-5 その他(太陽熱利用、廃棄物熱利用等を含む)687 → 2455
 上記計 1160 → 2455
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2009年8月10日月曜日

TOPPAN’sPatent for Mapped Information is Supported by IP High Court

 地図情報による広告情報の登録・供給・機能特許に対する大日本印刷の無効主張
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 凸版印刷の地図情報による広告方法についての特許に対して、大日本印刷が無効審判請求をしたが、特許庁はこれを不成立と審決したので、この審決の取消を、大日本印刷が知財高裁に訴求したが、知財高裁は凸版印刷の特許を適法と判断し、大日本印刷の請求を棄却した。SANARI PATENT流に言えば、要するに「従来技術からの容易想到性の有無」が争点で、知財高裁は非容易想到性を凸版印刷の発明に認めたと解する。(2009-07-29判決言渡)

1. 凸版印刷は、分割出願による請求項数4の、「広告情報の登録方法、同供給方法、端末、サーバ、および端末を機能させる方法」の特許権者である(平成13年11月2日設定登録)。その特許請求の範囲は下記の通りである(SANARI PATENT要約)。
1-1 登録者IDを、コンピュータネットワークを介して、特定のサーバに送信する段階、このIDによって、サーバから供給される地図情報を表示し、位置指定と広告情報を入力して送信する段階を備える登録方法。
1-2 上記各段階に対応する手段を備える端末。
1-3 登録者ID受信手段、このIDおよびパスワーどのチェック手段、このチェックによって地図表示、位置指定を制御する手段、位置座標関連広告の受信・記憶手段を備えるサーバ
1-4 上記段階・方法によって、指定座標に関連する広告情報をコンピュータネットワークを介して送信するよう端末を機能させる方法。
2 特許庁の審決
 上記の凸版印刷の発明は、従来技術に基いて当業者が容易に発明することができたということはできない。すなわち、凸版印刷の発明と従来技術の相違点として、凸版印刷の発明は「登録者IDをコンピュータネットワークを介して特定のサーバに送信する段階」を備えるのに対して、従来技術1にこの事項は記載されていない点など。
3. 大日本印刷の主張
 特許庁の審決には、「広告情報」を顧客ファイル作成に必要な情報の全てを指すものと解しているが、「顧客情報」は、店名、電話番号、業種情報、広告メッセージ等の顧客ファイル情報を構成する個々の情報であり、そのいずれでも足りると解すべきであるなど。
4. 知財高裁の判断
  従来技術2には、地図上の位置と千葉中国とを対応づける地番変換システムを作成するシステムの記載はあるものの、広告依頼者の端末から地図を利用して位置指定することにより、座標を入力された広告情報と関連づけるとの技術的思想の開示はないなど、従来技術を組合わせても、凸版印刷の発明のような構成を想到することはできないというべきである。

SANARI PATENT所見
 想到容易性の有無の判断基準を一層精密にするために、この判決の解析が加えられるべきである。
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2009年8月9日日曜日

UNICHARM Wins at IP High Court against JPO Decision 

ユニ・チャームの「尿取りパッド発明」特許出願拒絶査定支持審決を知財高裁が取消(2009-07-30判決)
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1. ユニ・チャーム(東証1部)の業績は、世界金融不況とは全く関わりなく、会社四季報は「最高益」という見出しで、海外向け「おむつ」伸び盛り、生理用品好伸び、紙おむつ等の需要増見込まれるインドとロシアに新工場設立、今期ない稼働メド、ロシアから東欧へも展開視野と評価している。その製品が国内の高齢化に即応すると共に、巨大人口の新興国でも歓迎され、現在の海外比率37%が急拡大すると想像される。
2. 「おむつ」については尿もれの防止が課題だが、特に男性用は、ペニスの存在と、その安定のさせ方が問題になる。(楽天ブログなどではペニスという用語は使用禁止かも知れないが、今次知財高裁判決はペニスのカタカナが百回近くも出現する中心的課題であるので、知財判決研究上は記載やむを得ずと了承されたい。
3. さて表題の本件は、ユニ・チャームが特許出願したところ、特許庁から拒絶査定を受けたので、これを不服として審査請求をしたが、特許庁が請求不成立の審決をしたことから、特許庁長官を被告として、その取消を知財高裁に求めた事案である。知財高裁は原告ユニ・チャームの請求を認容して審決を取消し、訴訟費用を被告特許庁の負担とする判決を言い渡した。
4. SANARI PATENT流に、知財高裁の判決理由を要約すれば、「ユニ・チャームの発明にはペニスを「おむつ」の中で安定的に位置させる技術的創作がなされており、進歩性新規性が認められるのに、特許庁の査定と審決は、従来技術と同一ないしこれから想到容易な着想であるとして、進歩性・新規性を否定し、従って特許性を否定した誤りがあるので、これを取消すというものである。
5. 知財高裁は「当裁判所の判断」として次のように述べている。「ペニスが開口部から外れにくいようにするという効果を得るために、「開口部の周囲の領域の積層体」が、「袋体の他の領域」と独立して変形し易いようにする必要があり、そのための工夫が、この発明における「開口部を囲む領域とこれ以外の領域との境に液吸収体を薄くし又は吸収液体を除去し
た変形境界部を形成すること」であると解すべきである。」
SANARI PATENT所見
 最近の知財制度改革論のうちには、法的安定性の確保と称して、知財訴訟による権利の変動を無くすることが望ましいとする論述が多い。場合を分けて、緻密な議論をすべきである。
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2009年8月8日土曜日

Various Fields of Service Industry Reveals Various Movement 

特定サービス産業動態統計調査結果の本年6月分速報
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 経済産業省(担当:調査統計部サービス統計室)が標記速報を発表した(2009-08-07)。この調査は、対象とする特定のサービス産業の売上高等の経営動向を把握し、短期的な景気、雇用動向等の判断材料にすると共に、産業構造政策、中小企業政策の推進、およびサービス産業の健全な育成のための資料を得ることを目的としているが、サービス産業の多様化に伴って、そのビジネス方法も多様化し、知財開発の成否がイノベーションの成否を直ちに左右する重要分野である。以下6月の概況を考察する。
1. 情報サービス業: 主力の「受注ソフトウェア」は、製造業向け、金融業向け等の減少により、前年同月比5.4%の減少。内訳のシステムインテグレーションは前年同月比3.9%の減少。ソフトウェアプロダクトは、ゲームソフトが前年同月比32.7%の著減に加えて、ゲームソフト以外のソフトウェアも減少したことから、全体では前年同月比15.3%の減少。データベースサービスは前年同月比4.7%の減少。各種調査は前年同月比1.2%の減少。計算事務等情報処理は0.0%の横ばい。システム等管理運営受託は前年同月比1.8%の増加を示した。
2. リース・レンタル業: 前年同月比9.9%の減少。
3. 広告業: 6月の売上高は前年同月比18.1%の減少。媒体別には、テレビが16.5%の減少。新聞は24.7%の減少。雑誌は31.3%の減少。ラジオは16.0%の減少。インターネット広告は3.6%の減少。
4. クレジットカード業: 取扱高は前年同月比3.3%の減少。特に国外は10.8%の減少。旅館・ホテルは9.6%の減少。消費者金融業務は19.4%の減少。
5. エンジニアリング業: 6月の受注高は前年同月比32.2%の減少。国内は21,8%、国外は45.5%の各減少。
6. 映画館: 6月の売上高は前年同月比23.6%の増加。入場者数は23.3%の増加。その内訳は、邦画24.9%増加、アニメーション1324.9%増加。洋画1.9%増加。
7. 劇場: 6月売上高が前年同月比18.6%の増加。
8. ゴルフ場: 6月の売上高は前年同月比7.9%の減少。
9. パチンコホール: 6月の売上高は前年同月比1.7%の増加。設置第1台当たりの売上高は3.7%の減少。
10.学習塾: 6月の売上高は前年同月比4.0%の増加。
SANARI PATENT所見
 おおむね想定の範囲内であろう。
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2009年8月7日金曜日

JPO Invites Public Comments on Patent Examination Procedure 

特許庁が「産業上利用可能性」および「医薬発明」の審査基準改訂案発表
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 今次審査基準改訂案は、わが国の知的財産行政上のみならず、知的財産権に関する国際調和上も極めて重要な意味を有し、SANARI PATENTが内閣知財戦略本部や特許庁に対して、数次にわたり意見表明してきたところである。先ず、今次意見公募の内容(SANARI PATENT要約)を考察する。

1. 審査基準改訂の理由: 内閣知財戦略本部・知的財産による競争力強化専門調査会において、次の事項を含む「先端医療分野における特許保護の在り方」が報告された(2009-05-29)。
1-1 専門家の予測を超える効果を示す新用法・用量の医薬の発明を「物」の発明として保護すべく、具体的な事例を示しつつ、審査基準を改訂すべきである。(SANARI PATENT考察: 冒頭の「専門家」と、特許法の「当業者」の相違の有無が先ず一般の関心の的になる)。
1-2 「最終的な診断を補助するための人体のデータ収集方法(手術、治療、診断が含まれない人体の計測・測定方法)の発明(例えば、MRIやX線CT等による断層画像撮像の仕組み、原理拿)を新たに特許対象とすべく、特許対象となる事例と特許対象外となる事例を示しつつ、審査基準を改訂すべきである。
2 この意見は内閣知財戦略本部に報告され(2009-06-24)、この提言を踏まえて審査基準を改訂すべきことが決定された。そこでこのたび特許庁は、次のポイントによる改訂案を作成した。
2-1 人体から各種の資料を収集する方法は、手術や治療の工程や、医薬目的で人間の病状等を判断する工程を含まない限り、「人間を診断する方法」に該当しないこととした(SANARI PATENT考察: すなわち、「特許対象とする」という意味である。)
2-2 組合せ物(物理手段と生化学手段との組合せ、生体由来材料と足場材料との組合せ、生体由来材料と薬剤との組合せ等)の事例を追加する。
2-3 細胞の分化誘導方法等が、「人間を手術、治療または診断する方法」に該当しないことを明記し、関連技術の事例を追加した。
2-4 アシスト機器関連技術の事例を追加した。
2-5 医療発明について
2-5-1 医療において、特定の用法・用量で特定の疾患に適用するという医療用途が、公知の医療と相違する場合には、新規性を認めることとした。
2-5-2 細胞等の生体由来材料の、用途に特徴のある発明の事例を追加した。
2-5-3 製造方法で特定された細胞の、医療用途に特徴ある発明の事例を追加した。
SANARI PATENT所見
現行審査基準における「産業上利用可能性」:
 医療関係発明が特許対象とされる範囲は、わが国においては審査基準の「産業上利用可能性」の解釈によって定められてきた。特許対象となるか否かは、国民の権利として極めて重要であるから、これをを法定しないのみならず行政通達に委ねることは、権利関係を不安定にするのみならず、国際調和(米国では医療関係について特許性の限定規定が特許法上、存在しない)をも欠くことを、SANARI PATENTは予てから主張してきた。今次改正案は、既述の通り、特許性付与の範囲の拡大にとどまり、上記抜本的改正には及ばない。 
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2009年8月6日木曜日

METI Releases Next Generation Energy Park 2009 Program 

2009年度「次世代エネルギーパーク計画」を経済産業省が発表(2009-08-05)
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経済産業省(担当:資源エネルギー庁新エネルギー対策課)が、「次世代エネルギーパークの推進について(平成21年度)と題して次のように(SANARI PATENT要約)発表した(2009-08-05)。

1. 概要: 経済産業省では、新エネルギーを始めとした次世代エネルギーについて、実際に国民が見て触れる機会を増やすことを通じて、地球環境と調和した将来のエネルギーの在り方についての理解を増進するため、太陽光利用等の次世代エネルギー設備や体験施設を整備した「次世代エネルギーパーク」を推進している。2009年度については、地方自治体を対象として、その計画を公募し、審査会で審議した結果、12件が要件を充足する計画として認定された。
2. 2009年度認定計画
2-1 宮城県次世代エネルギーパーク: 宮城県全体を一つの公園と見立てて、県内各地の次世代エネルギー施設を紹介する。すなわち、「公共施設の太陽光発電システム」、「国内で最古の歴史を持つ水力発電所や地熱発電所」「牧場における太陽エネルギー利用」、「林地残材(バイオマス)のエネルギー利用」を具体的紹介施設とする。
2-2 岐阜県次世代エネルギーパーク: 「燃料電池・太陽光発電・バッテリー」と「電気自動車」の組合せによる「半独立型エネルギー供給システム」を構築し(県央)、コスト低減、CO2削減の効果を実証公開する。
2-3 東近江市次世代エネルギーパーク: 次世代に美しい自然や歴史・風土を引き継ぐため、「協働」「体感」「発信」をキーワードとして市内全域で連携する。すなわち、
2-3-1 市民と協働で進める「あいとう菜の花エコプロジェクト」や商工団体等が立ちあげた「東近江市SUN讃プロジェクト」の取組を推進する。
2-3-2 子供から高齢者まで、体験型で学習する。
2-3-3 市内の関連施設とネットワーク化する。
2-3 三重県次世代エネルギーパーク: 県内各地の新エネルギー施設を次世代エネルギーパークとして位置づけ、連携してPRすることにより、次世代エネルギーについての県民の理解と普及を図る。
2-4 香川県土庄町次世代エネルギーパーク: 瀬戸内海国立公園東部の小豆島と豊島の公共施設に太陽光、風力の新エネルギーを導入する。
2-5 大牟田市次世代エネルギーパーク: 大牟田市の発展と共に歩んできた石炭の歴史と次世代新エネルギーを融合させた、過去から未来への体験学習の場とする。
2-6 熊本県くまもと次世代エネルギーパーク: ソーラーパークを中心とした太陽光発電、バイオマス、風力発電の情報発信
2-7 大分県次世代エネルギーパーク: 多様なエネルギーの周遊
2-8 糸満市次世代エネルギーパーク: 太陽光発電、風力発電の既存施設と、バイオマスの循環型社会を結び付ける。
2-9 宮古島次世代エネルギーパーク: 島全体をエネルギーパークとして位置づける。
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2009年8月5日水曜日

METI Starts New Study Meeting For the Compliance of Competition Rule 

競争法コンプライアンス体制研究会(経済産業省)発足(2009-08-04)
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 標記研究会について経済産業省発表(2009-08-04)の内容(SANARI PATENT要約)を以下考察する。
1. 設置目的: 近年、先進国のみならず、中国始め新興国も含めた多数国において競争法が制定・充実され、その国数は既に100を超える。(SANARI PATENT考察: 特許権を始め知的財産権は独占権を本質的内容とするが、公益との調整のもとに、その行使が競争法の規制に従うことは当然であるが、オープンイノベーション推進のための協調、パテントプール形成、デファクト標準構築などの企業活動が、国際的に競争法への関心を強めている)。このような状況のもとで、従来から刑事罰を通じて厳格な対応を行って米国と同調的に、域内の市場統合を目指す欧州競争当局が、カルテル法執行の強化の流れを強めており、カルテルを行った企業に対して多額の制裁金を課する事例が続いている。(SANARI PATENT考察: 欧州共同体の経済的地位を強化するためには域内連帯が必要であり、企業の国際競争力を強化するためには競争法の執行強化が必要である。)また、わが国の公取委においても、課徴金の適用範囲拡大を通じて、厳罰化の流れを進めていることから、内外の競争法の執行強化の流れは今後一層加速する。
2. 域外適用: 加えて、企業活動のグローバル化に伴って、米国を始め欧州、日本、さらには中国でも、国内の競争に影響を与える国際カルテルや企業結合事件に対しては、自国の域外であっても自国の競争法を適用する法体系を採用しており、実際に域外適用した事例も複数発生している。このような状況を踏まえれば、わが国企業においても、国際的な事業展開をしているか否かにかかわらず、内外の競争法の動向を注視し、かつ遵守する体制を西部しなければ、持続可能な企業の成長は確保し得ない。
3. 今次研究会の設置: 以上の現状認識に基づいて、表記研究会を8月から開始し、先ずわが国企業が認識すべき事項として、欧米を中心とする競争法執行強化の現状や、域外適用の可能性について、具体的事例を研究し、コンプライアンス体制の構築の在り方を検討する。(以下次回)(コメントは sanaripat@gmail.com にご送信ください) 

2009年8月4日火曜日

Reducing the Amount of Uncertainty in the Patent System

 技術的争点に関する的確な判断を支える制度の整備
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4.(承前2009-08-03記事)今次特許制度研究会の委員構成: 座長は、三菱電機。野間口 有・会長。業界は、日本IBM大歳卓麻会長、トヨタ自動車・佐々木剛史・知的財産部長、アステラス製薬・渡辺祐二・知的財産部長(SANARI PATENT考察:一製品を構成する特許権数など、知的財産の態様が対蹠的な電子・機械業界と医薬品業界から等分選任している)学会から東大・大渕哲也、白石忠志、渡辺俊哉各教授、京大・山本敬三教授、漢陽大学校法科大学・尹 宣熙教授、知財高裁・飯村敏明判事、および、弁護士・弁理士である。
5.第5回研究会(2009-07-06)資料
 本年1月から開催されているが、新しい動向を先ず見る意味で、日時の逆に最近の配布資料を見る。表題は、「迅速・効率的な紛争解決方法について(基本的考え方)」である。内容は、SANARI PATENT要約。
5-1 包括的検討: 特許に係る紛争を迅速:効率的に解決できれば、発明が適切に保護されると共に、制度利用者が紛争処理に費すコストを最小限とし、有限のロソースを研究開発に充ててイノベーションの促進に寄与できる。従って、迅速・効率的な紛争解決ための制度の在り方について、包括的に検討すべきである(SANARI PATENT考察:「包括」と「イノベーション」との結びつきは明示していない)。            
5-2-1 技術的争点に関する的確な判断を支える制度整備:
 侵害訴訟、審決取消訴訟等の特許訴訟においては、技術専門的な事項が争点となるが、最先端技術に関する争点や技術の流れ・相場観の適切な把握を必要とする進歩性については、特許庁の無効審判での判断を求めたいとの意見がある。また、最近では、同一の無効理由および証拠に基いているにもかかわらず、特許の有効性の判断結果が、侵害訴訟と無効審判の間で相違した事案も発生している(SANARI PATENT考察: 例えば、進歩性の判断を想到容易性の有無によって行う場合に、動機その他の判断基準が審査基準に示されていても、具体的には当業者の具体的判断によるから、相違する場合があることは当然である)。
 これらの意見や事案の発生を踏まえると、裁判所と特許庁において技術の流れ・相場観(SANARI PATENT考察:このような、一般に使用しない用語を避けて欲しい)を共有できれば、技術的争点の判断の信頼性を一層高めることができる。
技術的争点について判断するに当たり、既に、裁判官をサポートする一定の体制は存在している。すなわち、以前から、裁判所調査官が知的財産関連事件の審理・裁判に必要な技術的事項を調査して裁判官を補佐してきたほか、2004年には専門委員制度が導入され、2005年には裁判所調査官の権限が拡大された。(以下次回)
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2009年8月3日月曜日

From Pro-Patent to Pro-Innovation 

特許制度をめぐる国際環境の変遷
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2-2(承前2009-08-02記事)越国境の知財ファンド: 海外においては、技術市場に国境がなく、大学、研究機関のの研究開発活動とビジネスを連結するファンドの組成など、国境を越えた活動が盛んになっている。
 一方、国際的には、米国における判例の推移(SANARI PATENT注:特許庁のこの箇所での認識では、プロパテントに振れていた権利者保護の水準が、国際的レベルに引き戻されたことを意味する)や先発明主義の放棄などを謳った特許制度改革法案の動向、WIPOでのPCT改革の議論、先進国を中心としたPPHのプルリ化(SANARI PATENT注:特許審査ハイウェイの多国間化と訳すべきであろう)など、知的財産の制度調和の動きも着実に進展し、従来の制度に新たな論点を生んでいる。
2-3 わが国の経済状況への対応: わが国は、世界金融危機に加えて、資源・環境の制約、人口減少、国際競争激化などの構造問題に直面し、国際競争力を強化し持続的経済成長を実現するため、付加価値の源泉であるイノベーションの促進が重要であり、その実現に貢献するための知的財産システムの構築が求められている。
 これに対応するため昨年「イノベーションと知的財産に関する研究会」では、プロパテント政策の基本理念のもとでイノベーションを促進するため(SANARI PATENT考察:プロパテントとプロイノベーションを同義と考えるか、一方を目的的に考えるか、流動してきたが、特許のための特許ではなく、換言すれば技術進歩のための技術進歩ではなく、社会経済システムに革新的便益をもたらすイノベーションの実現に結びつく特許発明であってこそ価値があるというのが、現在の考え方である)、「持続可能な世界特許システムの実現」、「特許システムの不確実性の低減」、「イノベーション促進のためのインフラ整備」の3つの観点から、13項目の提言がなされた。
2-4 特許制度の歴史的経緯: 知財システムの中核をなす特許制度は、明治18年に公布された専売特許条例から124年、現行法である昭和34年法の制定から50年を経る。この間、国内外の環境変化や制度利用者の要請に応じて累次改正したが、特許法の根幹部分は変更されていない。
 一方、欧米、アジア諸国でも、特許制度に関する議論が活発化し、プロパテントからプロイノベーションに向けて特許制度の基本設計を見直すべき時期であり、国際的な議論をリードするためにも、これが必要である。
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2009年8月2日日曜日

Patent System Study Meeting For the Councilor of JPO 

特許制度研究会(特許庁)の年初来研究状況
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1. 特許研究会の検討項目: 
経済産業政策の一環として、特許制度のあり方については従来、経済産業省産業構造審議会知的財産政策部会で審議され、内閣知財戦略本部の知財推進計画によって政府案として承認されて、国会に改正法案提出という段取りを経てきた。
本年初に、特許庁に特許制度研究会が設置され、「知的財産活用によるビジネス態様の多様化への対応」、「行政・司法を通じた迅速・効率的な紛争解決制度の」整備」、「特許の質の向上によるビジネスリスクの軽減」、「特許審査の迅速化と制度利用者のニーズへの対応」、「国際的な特許制度調和の推進」について検討することとされた。
 具体的には、イノベーションと知的財産をめぐる環境変化、知的財産訴訟における権利安定性の確保、世界的な特許出願増大などの課題に対して抜本的な解決策を採るべく、検討の方向性の柱として、「イノベーションを加速する分かり易い特許制度」、「裁判でもしっかり守られる強い特許権」、「国際協調によって世界で早期に特許が成立する枠組み」を掲げ、特許制度のあるべき理想像について多角的・包括的に検討するとしている。
 以上を整理して検討項目として、「特許権の効力の見直し」、「特許の活用促進」、「迅速・効率的な紛争解決」、「特許の質の向上」、「迅速・柔軟な審査制度の構築」、「国際的な制度調和の推進」の6項目を掲げている。

2. 検討の背景: 
特許庁は次のように述べている(SANARI PATENT要約)。
2-1 近年の知的財産をめぐる動向: 近年、知的財産制度の環境は、経済のグローバル化・IT化・高度技術化に伴うオープンイノベーションの進展、M and Aの拡大などの企業行動によって大きく変化しつつある。すなわち従来、知的財産は、専ら企業が自社の研究開発の成果を保護するために利用してきたが、近年、大学、研究機関、ベンチャー、中小企業などの研究開発成果を第三者が活用してビジネス展開するためのパテントプールなどのように、その活用形態が大きく変化している(SANARI PATENT考察:パテントプールについての特許庁の上記記述は理解し難い。電子機器業界のように、多数特許権を包括的にクロスライセンスする必要がある業界から発足した体制である)。(以下次回)
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2009年8月1日土曜日

Performance Based Contracting of Info System Studied by METI 

経済産業省「情報システムのパフォーマンスベース契約研究報告書」を発表(2009-07-31)
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情報システムの取引における価格決定方式として、従来の人月方式の欠陥が予てより指摘されていたが、経済産業省(担当:商務情報政策局情報処理振興課)は、情報システムの付加価値に着目してその価格を決定するパフォーマンスベース契約について検討し、今次報告書を発表するに至った。以下その内容(SANARI PATENT要約)を考察する。
1. 今次報告書の背景と目的: わが国の情報システム市場においては、従来主として、人月ベースの価格表示を行ってきたが、人月ベースの方式は、労働量の単純なプライシングの方法であるため、システムの品質や価値を十分に反映することができず、これが主流を占めている限り、「情報システム市場の健全な成長は望めない」、「品質や価値を反映した価値決定の方法を導入する必要がある」という提言がなされてきた。すなわち、「人月ベースの価格の根拠が、ユーザー側の価格への不信感につながっていたこと」、「優れた品質や高い効果を創出するシステムを構築できるような付加価値の高いベンダが明確に評価される市場構造を確立することが、情報サービス産業全体の健全な発展の要件であること」、「人月ベースの価格決定のみでは、ベンダの品質向上や創意工夫へのモチベーションは生まれないこと」、「情報システム担当者にとって、CEOを始めとする経営層に説明できない価格では投資の妥当性を提示できず、投資意欲そのものを減退させてしまうこと」などが強調されるに至った。
2. 環境の変化: 情報システムのオープン化、インターネット化、これらに伴うSaaS、ASPなど(SANARI PATENT注:この2つを総務省は同義とみなしている。最近はCloud Computingが事業ベースに乗り、SaaSを包括するものとされている)を始めとするサービスへのビジネスモデルの移行が進み、また、業務や経営に対して情報システムが担うべき役割の変化に伴って、ユーザーのITコスト意識の徹底やニーズの多様化が進んでいる。しかし、そのような変化に対応した情報システムの取引や価格構造が整備されておらず、ユーザー・ベンダ双方に様々な課題をもたらしている。これらの課題に対応した価格設定や契約の一つの方法として、パフォーマンスベースの価格決定や契約を普及拡大することが適切と考える。(以下次回)
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