2011年10月7日金曜日

(2) 原告サッポロビール被告サントリーHD、特許権訴訟の知財高裁判決

弁理士 佐成 重範 Google検索 SANARI PATENT
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本件原告サッポロビールは、本件被告サントリーHDが特許権者である「麦芽発酵飲料」特許(4367790)の請求項1~9について無効審判を請求し、「本件請求不成立」と審決されたので、この審決の取消を知財高裁に訴求した。知財高裁はサッポロビールの請求を認容し、特許庁の上記審決取消を判決した(判決言渡2011-10-04:平成22行ケ10350)。要するに、サントリーHDの本件「麦芽発酵飲料」特許を無効とするサッポロビール(本件訴訟代理人・須磨光夫弁理士ほか)の請求が、知財高裁で認容され、サントリーHDの本件特許権を有効とする特許庁の審決が取消された。
知財高裁における本件争点は、明確性要件違反、実施可能要件違反、新規性・進歩性の有無、審決の判断遺脱の有無である。
本件サントリーHD特許権に請求項1(SANARI PATENT要約)は、「A成分として、麦を原料の一部に使用して発酵させて得た麦芽比率・分が所定値のアルコール含有物」、および、「B成分として、少なくとも麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留して得られたアルコール分が所定値のアルコール含有蒸留液」から成り、「A成分とB成分とを混合して成るアルコール分が所定値である麦芽発酵飲料であって、A成分のアルコール含有物由来のアルコール分:B成分のアルコール含有の蒸留液由来のアルコール分の率が所定の比率であることを特徴とする麦芽発酵飲料」である。請求項2以下は、請求項1から、いわば誘導された内容と解する。
上記争点に関する訴訟当事者の主張は、知財高裁の32ページに及ぶ判決文に詳述されているが、知財高裁は、争点の一部について被告サントリーHDの主張を認めたが、新規性・進歩性の有無については、「本件発明のA成分に該当するビールのような麦芽飲料と、B成分に該当する焼酎・ウイスキー・ジンなどの蒸留酒を混ぜ合わせて飲料とすることは、周知のことと認められる」が、「特許庁の審決においては、このことに基く新規性・進歩性の有無に関して判断の遺脱がある」とし、「よってこの審決(サントリーHDの本件特許権を有効とする)は取消されるべきものであるから、原告サッポロビールの請求を容認することとする」と判決した。
佐成重範弁理士所見
この知財高裁判決には、「ドックス・ノーズ」という名称のカクテルが、ドライジンとビールとを特定の割合(オールド・ニュー別)で混合した飲料であること、「ボイラーメーカー」という名称のカクテルがウイスキーをショットグラスに入れ、ビア・マグに沈めるもので、混合処方が開示されていることなどが示され、知財高裁判決文にあまり馴染まない向きにも興味があるかと思うが、発酵酒と蒸留酒の混合という周知の考案に対して、所定値により特許性を充足するため、どのような創作が必要であるかを、この判決から知るべきである。パラメータ発明の類型が想起されるが、パラメータ発明においては一般に、閾値の意味、(その値の内外における効果の差異)が重要であることも考え合わせるべきである。
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