2010年12月27日月曜日

「カーソル初期化」と「カーソル位置の初期化」

弁理士 佐成 重範   ケータイ検索 SANARI PATENT
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「カーソル」とか「初期化」とか、現代社会の慣用語だが、「カーソル初期化」と「カーソル位置の初期化」とは、どう違うのか、知財高裁の判断が示されたので、今後のデジタル発明に備えて以下に要約しておく。この知財高裁訴訟事件(平成22年行ケ10112号 審決取消請求事件:判決言渡2010-12-22)の原告は、被告パイオニア株式会社の「データ表示装置及びデータ表示方法」特許権の無効を主張し、その理由として被告による「明細書訂正」が「要旨の変更」に該当すること、および、「容易推考性」を挙げたが、知財高裁はそのいずれをも認めず、被告パイオニア(訴訟代理人・広瀬隆行弁理士ほか)が勝訴した。
(1) 原告は、リセット要求により行われる「カーソル初期化」と基準初期化状態にする「カーソル位置の初期化」とは異なるから、リセット要求に応じて表示状態を基準初期化状態に更新することは、被告の本件訂正前明細書に記載されておらず、従って、本件訂正事項について訂正前明細書記載の範囲内のものであるとした審決の判断は誤りであると主張しているが、訂正前明細書において、「カーソル位置の初期化」は、「途中から異なる路線に進入した場合」、「前回の初期化だカーソル位置に対応していた施設を通過してしまい、進行方向前方の最も近い近い施設が変更された場合」等に自動的に行われるもので、進行方向前方の最も近い施設を最下段として上下に施設名称を表示し、かつ、最も近い施設の位置をカーソル位置の基準初期化位置として、カーソルを表示する処理である。
(2) これに対して、「カーソルの初期化」については、ユ-ザ-からリセットあるいはカーソル初期化要求された場合に、表示画面を更新する旨の記載はあるが、更新の結果としていかなる表示を行うかに関する明確な記載はない。
(3) ところで、訂正前明細書には、全体の処理の流れを記載した図面があるが、「カーソル位置の初期化」と「カーソル初期化」の処理は別個の処理と認められる。
(4) 従って、「カーソル初期化」によりいかなる処理がなされるかが問題となるが、「カーソル」の文言は、画面上の位置によって、その画面に表示された施設名等の表示物が選択された状態であることを示すため、下線、色、記号等を意味するものと解されるから、「カーソル初期化(リセット)」については、カーソルの位置を「基準初期化位置」である最下段に戻すと共に、カーソルを上下キーによって移動させる前に選択されていた施設に戻す意味であると解するのが相当である。
(5) この場合、前回の「カーソル位置の初期化」の処理からリセット要求に基づく「カーソル初期化」の処理までの短時間の間に最も近い施設を通過している可能性もないとはいえず、その場合、「カーソル初期化」の結果として、その時点で進行方向前方の最も近い施設ではない施設が選択される事態もないわけではない。
(6) しかし、そのような場合に関しては、技術常識に照らし、「カーソル初期化」から短時間の後になされる「カーソル位置の初期化」の処理によって、最も近い施設を選択し直すことが予定されているものと解されるから、結局、リセット要求の結果として、「カーソル初期化」と「カーソル位置の初期化」の処理により、必ず「進行方向前方の最も近い施設」が「基準初期化位置」である最下段に表示された上でカーソルによって選択されている状態になるのであり、ユーザーによるリセット要求もこれを前提としてなされる。
(7) 従って、訂正前明細書には、「カーソル要求」に従って、カーソルを単に基準位置に位置付けるに止まらず、仮に進行方向前方の最も近い施設が変更された場合にあっても、最も近い施設を基準初期化位置に表示した上で、そこにカーソルを位置付けることが記載されているものといえる。
(8) 従って、カーソル要求に応じて表示状態を基準初期化状態に更新することは、訂正前明細書に記載されている。
SANARI PATENT所見
カーナビに慣れた現代社会で、グローバルに理解され易い判決だが、関連発明も続くと思われるので、判例として熟読を要する。
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