2015年11月22日日曜日

「食品薬品の安全安心」を研究して40年、秦野研究所業績に敬意と期待


安全と安心を峻別しつつ、次世代の健康科学に寄与する
弁理士 佐成 重範 Google・Yahoo検索 SANARI PATENT
(知財戦略関連の他サイト:http://bit.ly/dfBR7g)
日本国内ではほとんど唯一の民間食品薬品安全性試験機関として、極めて地味な活動を続けている一般財団法人・食品薬品安全センタの年報に、佐成 重範弁理士(経済産業省派遣でその常任幹事を8年間)が、同センタからの求めに応じ、下記の祝辞を寄稿し発表されたので、同文を以下に記録し、参考に供する。
国内外社会経済の著しい変革が展開したこの40年間、食品・薬品の研究開発と製品化も活発化し、これに即応する安全性確保のニーズが多様化かつ著増した環境のもとで、秦野研究所が、GLP準拠の高い信頼性を堅持しつつ、諸般の安全性研究と試験業務受託の重責を果たしてこられたことは、関係各方面の識者が等しく表敬するところであり、その母体である現・一般財団法人・食品薬品安全センターの常任監事職を、昭和57年から8年間にわたり務めさせていただいた私にとりましても、衷心より慶びに堪えないところであります。さらに現在、先進国・新興国を含むグローバルな社会経済情勢の変動とイノベーションは、食品・薬品の安全性に関する新たな諸課題と、それらの競合・拮抗・撞着問題を続出し、従って、秦野研究所の研究・試験活動に対する期待も一層昂揚して、その業容拡大が、現時点から将来に連なって強く希求されていることに、改めて前向きの、深甚な敬意を表したいと存じます。
 翻って、秦野研究所創設当時のわが国は、生産の拡大と技術革新の急展開による高度経済成長と所得の上昇期に際会し、鉱工業生産の優先が農水産食品や加工食品への毒性物質混入を原因究明不十分のままに招来し、特に新規化学物質の開発も相次いで、発癌性その他の毒性に対する不安が急速に拡大していました。他方、国民の可処分所得総体の増大は、競輪などの投機的要素も含む公営競技の活況をも招き、その著増する売上高の一部の公益記念支出先として、秦野研究所創設に約25億円の全額特例補助が、厚生労働省と経済産業省との協議により決定されたという経緯があります。先ず母体の旧・財団法人・食品薬品安全センターは、米国のFDAの名称そのままの日本版の如く、「毒性」を日本人好みの「安全性」と読み換えた名称のようにも見えましたが、米国FDAが国家機関として職員数千名を国費で擁する一大組織であるのに比し、秦野研究所は、施設建設費は上記により調達されましたものの、運営費・自己研究費は受託事業の収入から賄うことを要し、かつ、実験動物の年中無休の完全飼育の固定費も多額ですから、発足後の運営には、克服すべき不安定要素も多かったことと回顧されます。一般の民間事業であれば、コスト削減の合理化も強行できますが、秦野研究所の受託事業はGLPの厳格な順守が信頼・存立の絶対的基盤ですから、故・橋本虎六理事長を始め、創設以来の従業者各位の御心労はお察しするに余りあります。なお、「GLP」は、「優良試験手順」等と訳されておりますが、「優良」は「優良可」の相対的優ではなく、適格か否かの択一的優(Good)であり、「手順」(Practice)も厳格精緻な強行手順「規制」で、「適格実験規律」とも訳すべきものと、私は考えてきました。この規律順守が、民間企業からの受託事業を運営資金源とされつつも、業者の利害に全く影響されないエビデンスの現出を遂行するわが国の希少な食品薬品安全性関係実験実施機構として、この40年間にわたり、その導出エビデンスが許認可等行政の基礎資料たり得たことは明白であります。最近のSTAP・人工多機能幹細胞事件におけるブラックボックス性が世界トップクラスの国営機関において現出し、国際トップ学術誌の記事取消にまで及んだことに鑑みても、上記秦野研究所の信頼性は誠に貴重であります。従って、過去40周年に至る秦野研究所の業績に対し広く各界から、また世界諸国から、表敬されることは当然でありますが、私は更に、秦野研究所の、現下および今後の活動の展開に寄せられている期待の広汎かつ重大性が、一層の業容発展を期待されていることに思ひを馳せ、新たな、前向きの敬意と祝意とを表したいと存じます。
 すなわち、先ず食品について現下の卑近な例を見れば、マスコミ(朝日紙等)には例えば、「安全確認されぬ成分、機能性食品には認めず」との見出しで、消費者庁が、機能性表示食品として届出受理された商品の中に、トクホ特定保健用食品の審査過程で、安全性が確認できない、と指摘された成分を用いる商品があることを受けて、安全性・機能性が科学的根拠にに基づかないことが明らかになった場合は、東京都等が受理した届出の撤回を求めることもある」として、安全性の科学審査を強調しています。届出制と許認可制とは質的に異なるかのように見えますが、届出の{受理・不受理」が行政庁の権限に属する以上、安全性確保の行政責任の存在に差異はないと考えるべきであります。また更に国際的な課題としては例えば、今次TPP(環太平洋経済連携協定)交渉で難航している課題のうちに、薬品特許権の期限等のほかに、遺伝子組換食品の表示に関する問題が報じられていますが、遺伝子組換食品の安全性そのものについては、既に秦野研究所が研究受託しているテーマでもありますが、世界人口・食料需要著増の今後こそ、その確保の在り方が一層グローバルな重要課題として、展開すると考えます。
 次に薬品については、バイオ医薬品等の新薬続出と共に、生活習慣の変遷、高齢化の進行などに伴い、厚生労働省・関係諸学会による診断・治療ガイドラインの改訂も数次にわたる一方、医学薬学界から相克する発言も多発して、薬効と副作用すなわち派生あるいは重合有害事象の告知による患者・生活者の困惑をも深めているのが現状であると考えます。生活習慣病の一角とも考えられる癌については、新たに「癌対策基本法」が制定施行され、「医師その他の医療関係者は、国および地方公共団体が講ずる癌対策に協力し、癌の予防に寄与するよう努めると共に、癌患者が置かれている状況を深く認識し、良質かつ適切な癌治療を行うよう努めなければならない」(第7条)と定められましたが、この基本原則は癌のみならず生活習慣病全般に適用されるべきこと、抽象的には異議なしとしても、HBA1Cや収縮時血圧の上限値など糖尿病や高血圧病罹患に該当するか否かの判断基準数値は変動を重ね、また、高齢者への特段配意条項や、延命に対する生活の質(QOL)維持の優先の考え方が優位になるに伴い、薬品投与におけるリスク(副作用としての有害事象発生)とベネフィットのバランスにおける延命の評価も流動しています。特に、安全性・毒性・副作用・害悪事象などと薬品評価の諸概念が併称される抗癌剤分野では、これら用語の含意を明確にする志向についても、広く有識者の見解が徴されるべきであります。現行抗癌剤の副作用については、白血球減少、肝障害、腎障害、ヘモグロビン値低下などの有害事象が公認され、薬品依存の政府・学会ガイドラインがエビデンスありとする延命効果と拮抗して、医学界からも多くの疑問が提起される一方、標的抗癌剤関連の研究「標的臓器毒性等の毒性やヒト代謝機能の影響を顕出し得る細胞試験法の開発、および、これら試験法等の複数の細胞試験法を迅速かつ効率的に実施可能なハイスループット試験システムの開発・肝臓毒性試験管試験法の開発」という長い、適用範囲広汎な標題の研究委託が経済産業省から秦野研究所に寄せられていることが注目されます。
 そもそも、食品・薬品・医用機器の安全性は、一定の用法・用量と個性特異性を前提として評価され得ますが、最近の子宮頸癌ワクチンや糖尿病薬アクトス問題に例示されますように、個性特異性に対する見解が従来以上に重要視され、秦野研究所事業の質的深化にも影響するかと存じます。例えば、在来の臓器別抗癌剤が、他部位の発癌や他病変に対する免疫機能を阻害することとのリスクと延命メリットのバランスのもとにのみ許容されていることの難点を解決し、このような標的適合性の汎用を期する重大なイノベーションを狙った研究委託と考えますが、実はここでも、安全性・非安全性・毒性・副作用・加害事項などのリスク・ベネフィット・バランス評価における明確な概念規定が望まれます。
「安全と安心」の相異や、「安全性」は「安全」ではない、それは「蓋然性」である等の、小野 宏・秦野研究所理事長のご所感を更に精緻化した認識の在り方のご提示も、秦野研究所に期待されます。また、「Adverse Drug Effect」の翻訳としての「薬物有害作用」の高齢者特異性(東大大学院老年病学・秋下雅弘教授)の「安全性」との関係も、実は、来月に卒寿に達する私にとっての重大関心事でもあります。
 40周年の祝意と共に、今後期待される秦野研究所のご発展を、衷心より祝福申上げる所以であります。          

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